新・駅前そぞろ歩記

里山に春を告げる ”流鏑馬”や”新しき村”。
今回の登場人物
東毛呂〜武州長瀬(ひがしもろ~ぶしゅうながせ)

「東毛呂」「武州長瀬」と駅名を聞けば、はるか昔の歴史文化が偲ばれますが、ここは意外と都心から近く、池袋から約1時間、東上線の急行に乗り、坂戸駅で越生線に乗り換えれば、ほどなく到着という距離です。それでいて、豊かな関東平野と、秩父山地に開けた穏やかな裾野風景が心地よい。 名所も点在していますが、今回は貴重な神事 ”流鏑馬(やぶさめ)”と、武者小路実篤で有名な”新しき村”を中心に散策してみました。時は早春ー道すがら眺める里山の景色もまた和やかです。

東毛呂〜武州長瀬(ひがしもろ~ぶしゅうながせ)
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東毛呂〜武州長瀬(ひがしもろ~ぶしゅうながせ)
のどかな春は、古式ゆかし”流鏑馬”とともにやってきた。

東毛呂駅に降りると、街並みは臥龍山(がりゅうさん)の裾野に広がります。山といっても小高い丘陵ですが、その上にどっしりとした佇まいを見せるのが、この地方のシンボルでもある「出雲伊波比(いずもいわい)神社」。創建は123年で、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)がこの地に立ち寄り、出雲大社の祭神を祀ったことが始まりとか。本殿は焼失のため16世紀に毛呂顕繁(もろあきしげ)により再建されましたが、それでもなお埼玉県内最古の建築様式を伝え、国の重要文化財に指定されています。お社の美しい空間から、拝殿に観る巧みな木彫の細部まで、この里山の歴史文化を静かに見つめてきた存在ですから、見逃せない。

なかでも注目は、境内で行われる有名な神事”流鏑馬”(やぶさめ)です。毎年2回、春と秋に奉納されますが、始まりは平安時代後期といいますから、実に900年を上回る伝統があります。このような古式ゆかしい様式で行われるのは、いまやここ毛呂山町のみとなりました。

”春の流鏑馬 ”は、毎年3月第2日曜日に行われ、ちょっと珍しい稚児(ちご)流鏑馬に出会えます。これは”7つうちは神の子 ”といい、幼児がより神意に近いとする故事によるもの。6歳までの幼児が乗り子に選ばれ、祭馬にまたがって弓矢で願的(がんまとう)を狙います。赤い陣羽織に、華やかに飾られた花笠で正装したその姿は、武者人形のよう。射るのは1回限りですが、あちこちでカメラのシャッターが切られます。ちなみに”秋の流鏑馬”は11月3日でさらに大規模。乗り子の少年は小・中学生となり、祭事らしい賑わいで知られます。

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東毛呂〜武州長瀬(ひがしもろ~ぶしゅうながせ)
人々と自然が共生する里山の風景に触れながら

里山の春景色と営みを探して、次に向かいたいのは「新しき村」。電車で1駅、武州長瀬駅へ行けば、徒歩で約25分の散策圏内にありました。少しずつふえていく畑や田んぼ、木や花の芽吹く色も懐かしく楽しめます。こうした野中に開かれた「新しき村」は一種の農村共同体。海外でも知られるように、白樺派の文豪・武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)と仲間たちが、文筆にとどまらず、人間と自然が調和する争いのないユートピアを実現しようと開きました。そもそもは大正期に宮崎県で誕生しましたが、ダム建設のため、1939年に一部がこの地に移転し、”東の村”とも呼ばれています。現在は一般財団法人。村人が作業する田畑をはじめ、鶏舎や茶畑などに囲まれて、初期の理想はいまも活きているようです。村内にある「新しき村美術館」で芸術家・実篤の書画を鑑賞したり、「生活文化館」ギャラリーで村民の手づくり作品に出会ったりできるのも興味深い。「食堂直売店」では村生産の米、椎茸、産みたて卵や採りたて野菜などが入手できました。

ところで、こうした特産品に恵まれているのが東毛呂・武州長瀬駅界隈。JAの農産物直売所を見ても、おいしそうで、ついついお土産は重くなりがちです。そこで、荷物にならない”ご当地グルメ ”もご紹介しておきましょう。たとえば町の一番人気は「豚玉毛丼(ぶったまげどん)」です。これは、ご当地自慢の豚肉・米・卵(半熟!)を甘辛いタレで仕立て、さらに古くから毛呂山名産の柚子をそえたオリジナル。町内あちこちのお店で食べられますから、ご賞味の価値あり!です。

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東毛呂〜武州長瀬MAP
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