東武越生線の終点・越生駅がある越生町は、人口およそ１万の自然豊かな小さな町。四方を豊かな森と山に囲まれた魅力的なロケーションで、浅見さんご夫妻が営む「OKUMUSA marché」を訪れました。

移動するには尾根を越えなければならず、「尾根を越える地」が次第に変化して現在の地名になったと伝わる越生（おごせ）町。外秩父山地の山裾に広がる、人口およそ1万の自然豊かな小さな町です。東武東上線坂戸駅から延びる東武越生線の終点・越生駅が最寄り駅。池袋駅からおよそ1時間で到着します。

この町にもっとも多くの人が訪れるのは、関東三大梅林の一つに数えられる越生梅林の開花時期（2月中旬～ 3月下旬）。約2万haもの敷地に1200本ほどの梅が植えられていて、明治時代に田山花袋や野口雨情が詩歌に残すなど、みごとな花々を見ることができます。さらに町内には、日本観光百選の黒山三滝や五大尊つつじ公園など、見どころも点在しています。

とはいえ、町内をぐるりとめぐってみると、駅周辺の中心地を離れれば人影はまばら。町内各所から外秩父山地の山並みが顔をのぞかせ、池袋から直線距離で50km圏内とは思えないほどにのどかな雰囲気に包まれています。そんな越生にあって、休日になると県内外から多くの人が訪れるカフェを訪ねてみました。

町を流れる清流・越辺川の支流が目の前を流れ、四方を豊かな森と山に囲まれた魅力的なロケーションにある「OKUMUSA marché」。浅見さん夫妻がこの地にお店を開いた経緯は、少しユニークでした。妻の洋子さんは子育てに多忙ということで、夫の敦さんがこう語ってくれました。

「私は、すぐ近くで生まれ育った地元民です。東京のデザイン会社に就職し、その後、東京出身の妻と結婚。越生への数度の帰省をきっかけに妻がこの町の環境を気に入り、毎月のように2人で帰省するうちに、この地に暮らすことを希望。越生の魅力を熱く語る妻の話を聞くうちに、私もいかにすばらしい場所かに気づいたのです」。

とはいえ、すぐに移住するのでなく、約2年半の準備期間をおいたお二人。「カフェを開いたのは2014年のこと。完全に移住したのは2016年で、およそ2年半の間、週末だけ帰省して、カフェを開店するスタイルにしたのです。いわゆる二地域居住。この期間を設けたことで、こだわりの農家さんや工芸作家さんなどとのネットワークを広げることができました」。

現在、お店で提供されているのは、敦さんのお父様が打ったそばとスパイシーな薬膳カレー、そして平飼いの卵や地元特産の梅を使ったスイーツやドリンク。越生や周囲の魅力をぎゅっと集めた品々が楽しめます。

「地産地消にこだわったメニューも、もちろん楽しみにいらしてください。でも、Uターンして初めて気づいた越生の魅力も感じてもらえればうれしいですね。清流や鳥のさえずりといった自然の“音”、木々や土、花の“香り”、時間や気持ちの余裕から生まれる“余白”。そう、ここは町を包むあらゆるものに癒される、“町セラピー”の聖地のようだと感じてもらえればと――」。