鹿沼散策の起点となるのは、東武日光線の新鹿沼駅。日光や会津へ向かうすべての特急が停車するため、浅草から1時間30分ほどでアクセスできて、日帰りで楽しむのにぴったりのロケーションにあります。
そんな新鹿沼駅の北に広がる1㎞ほどの範囲に、古民家や古い店舗をリノベーションしたおしゃれなお店がたくさん点在しています。そのきっかけとなった場所が鹿沼市役所のすぐ北側にある「根古屋路地」と聞き、足を運んでみました。
「1999年に私の実家があったこの路地で古民家を改装して、わずか10席のカフェを開いたことから物語が始まります。現在の日光珈琲 饗茶庵本店です。しばらくすると、同じ路地にあった住居が次第に空き家になっていき、街の中心部を見ても同じような空き家が目立つように……。私が育った幼年期のような、活気ある街を取り戻せないかと考えるようになったのです」
現在、栃木県内に6軒のカフェを展開する日光珈琲の代表である風間教司さんは、創業当時をこう振り返ってくれました。その後、根古屋路地の新たな空き家に知人が「アンリロ」を出店。毎月開催し続けたマルシェなどの活動もあって、「ネコヤド」の愛称とともに、路地が注目されるようになったといいます。
路地の最奥にある「アンリロ」は、マクロビオティックをベースにしたフレンチレストラン。季節ごとの野菜のおいしさを最大限に引き出した品々はもちろん、ほっと落ち着ける空間も魅力の人気店です。

ちなみに路地には、猫大師を祀る祠があります。その昔、この路地に傷ついた猫が迷い込み、憐れんだ住人が介抱したところ次々と幸運が訪れたとか。その猫が縁側から路地を眺める姿が解脱したような姿だったことから「大師さま」と呼ばれるようになったと伝わっています。路地に賑わいが戻ったのは、猫のご利益もあったのかもしれませんね。「日光珈琲 饗茶庵本店」では猫大師を描いたお札のような猫ステッカーを100円（税別）で販売。さらに、現在も路地には数匹の猫が暮らしているので、探してみるのも楽しそうです。
「路地という場所は、道幅が狭いためにすれ違いざまに挨拶をするなど会話が生まれますし、長くそこで暮らしていた人々の営みを感じられる場所だと考えています。さらに、古い建物を再生することは、その街の個性が生きることでもあります。新築のお店とは違い、古い建物は街の歴史も宿していて、その街にしかない存在といえます。だから私は、レトロな空間にもこだわっているのです」（風間さん）

路地の入り口にある「おやつsirimiri」のオザワさんも、風間さんと知り合い、この路地で空き家を見つけて出店した一人。「路地やレトロな空間を愛する風間さんの思いを聞いて鹿沼を訪れるようになり、自分一人で営むにはちょうどいいスペースが空いていることを知り、初めてお店を持ちました。古民家を使ったお店が並ぶ魅力的な路地という場所は、他の街にはあまりない特別な空間ではないでしょうか」。食事と食事の間の「おやつ」をコンセプトに、スペイン〜フランスのバスク地方の味をアレンジしたガトーバスクをメインとした焼き菓子などをそろえています。
さらにこの路地には、日光珈琲のパンやコーヒー、雑貨などを販売する「ネコヤ堂菓子店」や焙煎所などが並んでいます。

風間さんたちが根古屋路地で始めた取り組みは現在、周辺へも広がりを見せています。たとえば、かつては鹿沼の中心部としてもっとも賑わいを見せていたという銀座通り。お店が減り人影もまばらになっていましたが、シェアキッチンや会員制ラウンジなどを備えた「kanuma commons」と、音楽家と映像作家が運営する宿泊可能な複合施設「Center」という、2つのリノベーション店舗がオープン。活気を取り戻す取り組みがスタートし始めました。

さらにその銀座通りを東へ進み、交差点を過ぎてすぐ左手に、レトロでおしゃれなお店が並ぶ長屋があります。風間さん曰く、「ここは、この街でお店を開きたい人を支援するために手掛けた歴史ある長屋」なのだとか。今回は、オリジナルインドカレーを提供する「月とスパイス」と、手作りの焼き菓子がそろう「kirara」を訪ねました。いずれのお店も時代を感じさせる長屋の雰囲気は残しつつ、同じ建物を改装したとは思えないほどに個性のまったく異なる空間が広がっています。

新鹿沼駅からは少し離れますが、田園風景が広がる一帯にも店舗をリノベーションしたお店を見つけました。農業を営みながら、週の半分ほどベーカリー＆カフェを開く「一本杉農園」です。オーナーの福田さんは、あえて街中心部ではなくこの地を選んだ理由をこう語ってくれました。
「この近くで生まれ育ち、パン作りのために他の街へ移っていましたが、戻ってみると、ほとんど人が歩いていないのです。一帯にお店がなくなり、買い物などは中心部などへ車で移動する生活スタイルになっていたためです。人の姿の見えない故郷に寂しさを感じて……。かつてのような姿を取り戻すためには、地域の人、さらには他の街の人も集えるような社交場が必要ではないかと考えてお店を開きました」
こちらもレトロかわいい店内が広がっていますが、福田さんの祖父母が営んでいた蕎麦処の建物を改装したもの。周囲に広がる田畑を眺めながら、のんびりと過ごせることも人気の理由となっています。

この街は江戸時代、例幣使街道と日光西街道の宿場町として栄えた歴史を持ちます。日光東照宮をはじめとした寺社仏閣がある日光に集まった彫刻師は冬になると下山し、この地に滞在。その技を生かして彫刻をはじめとする木工技術を鹿沼に伝えました。そうして生まれたのが、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている鹿沼今宮神社祭の屋台行事です。
街の中心部にある「屋台のまち中央公園」には、秋に開催される鹿沼秋まつりで実際に使われる3基の彫刻屋台を展示。精巧な彫刻を間近に見ることができます。特産のこんにゃくを使った料理やスイーツが味わえる「おこんにゃく茶屋」もあるので、目と舌で鹿沼を感じるのも魅力的ですね。

さらに「大坂屋【夢箒】店」では、江戸時代に起源を持つ鹿沼箒のミニサイズ型を手作りする体験もできます。
こうした鹿沼散策には、駅の南側にある「okura bike」にそろっている電動アシスト付き自転車のe-bikeを借りてめぐるのがおすすめです。