創業は江戸時代の中期から後期に差し掛かる天明元（1781）年といいますから、今から250年近くも前のこと。油屋として創業し、幕末から味噌造りを始めた街を代表する老舗が「油伝味噌」です。歴史ある建物が並ぶ日光例幣使街道沿いのなかでもひと際目を引く、風格ある建物が街のシンボルとなっています。
「正直、古い建物は維持していくのがたいへんですし、夏は暑く冬は寒く、暮らしていくのも苦労が多いもの。でも、長い歴史を受け継ぎ、維持していくのは誇らしい気持ちです。自分に代替わりして何か新しいことを始めたいと、自社醸造したクラフトビールの販売を2023年5月からスタートさせました」

老舗を受け継いだ小池英太郎さんは、こう語ってくれました。味噌の醸造所がなぜ、ビールだったのでしょうか？
「深みがあり豊かな味わいの味噌は、長年造り続けている油伝の伝統の味として定着しています。だから、味噌とは異なるキャラクターのアイテムにしたかったのです。そこで何を始めるべきか模索するなか、自分がこの地にあった方が良いと思えるもの、地域とつながりが持てるものという考え方も大切にしました。そこで行きついたのがクラフトビール。現在は定番の2種類と、自分のアイデアで生まれた変わっていく2種類を販売していますが、地域の特産品を使ったビールなども考案しています」

猛暑が続いた2023年の夏は、「清涼感で暑さを吹き飛ばす！」をコンセプトにした「瞬冷ミント」が登場。訪れるたびに、小池さんのアイデアで生まれるユニークな銘柄に出合えそうです。
一帯が歴史地区として観光客を誘致し始めた1980年代から始まったのが、味噌を田楽として提供する食事コーナー。特製の豆腐や里芋、こんにゃくがセットになった田楽盛合わせは、1本ずつ味噌の味わいを変えたこだわりの逸品。クラフトビールとともに味わえば、老舗が生み出した新旧の味わいのマリアージュを楽しむことができます。

1.各地のクラフトビールフェアなどにも積極的に参加する小池さん　2.田楽盛合せ700円とクラフトビールのカエモンエール中700円～　3.味噌は風味や色合いの異なる4種類を販売。甘酒や田楽みそも購入できます　4.入り口にある食事コーナー　5.奥に細長い構造の店構え　6.油伝味噌近くの嘉右衛門町にある、街の歴史などを紹介するガイダンスセンター。歴史的な建物やお店が載った地図などが入手できます

東武鉄道の特急が停車する栃木駅は、5分ほど歩いた巴波川や蔵の街大通り沿いに重厚な蔵が残る歴史地区として知られる街。今回訪れた油伝味噌のある嘉右衛門町もまた、国選定の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている歴史薫るエリアです。栃木駅からは2kmほどの距離がありますが、隣駅の新栃木駅からなら800mと気軽に歩いて向かうことができます。

日光例幣使街道の宿場町や舟運の集散地として栄えた嘉右衛門町かいわいは、往時の地割が残されていて、敷地内に蔵を備えた歴史的建造物が立ち並ぶ、栃木市が誇るもうひとつの「蔵の街」。栃木駅近くの歴史地区に比べて人影は少なく、のんびりと散策できるのが魅力です。現在残されているのは、江戸時代末期から昭和初期にかけて建てられた建造物が中心。代官屋敷や畠山藩の陣屋跡、翁島別邸、庭園などは、一帯の発展に貢献した旧家・岡田家の記念館となり、見どころのひとつとなっています。さらに300ｍほど日光例幣使街道を南下すれば蔵の街大通りの北端に到着。栃木駅までの間には数々の蔵が立ち並び、巴波川を進む遊覧船も運航。足を延ばしてみるのもおすすめです。