2026.10 No.928 掲載

第9話
なかなか手ごわい?「褒め活」の話

アメリカを旅行していた時のこと。ラメで覆われたキラキラスニーカーを履いて、ショッピングモールの上りエスカレーターに乗った。すると隣の下りエスカレーターに乗った女性が、すれ違いざまに私の足元を指さしてこう言ったのだ。

「Oh, I like your shoes!」

このタイミングで⁉

意表をつかれた私は、彼女にサンキューを言う間もなかった。逆方向のエスカレーターに乗っているので、離れていく速度も倍なのである。どんな状況であれ褒められるのは嬉しい。欧米の人は褒め慣れていて、褒めの瞬発力が鍛えられている。

これは見習おう!とばかり、私も知らない人を褒める、「褒め活」を始めた。

以前、混雑きわまる喫茶店に入ったら、急ぎながらも笑顔と丁寧さを忘れず接客している小柄な女性がいた。頑張っている人は応援したくなる。

お会計の時、「忙しい中でも丁寧な接客をされていて、素晴らしいですね」と伝えてみた。少し疲れが見えていた相手の顔が、その一言でぱっと輝く。「ありがとうございます!」という返事にも力があり、少しは元気を取り戻してくれたようで、こちらまで嬉しかった。

ただ、いつもうまくいくとは限らない。

褒めようと声をかけると、勧誘かクレームだと勘違いされることがある。だから最初はちょっと気をつかう。それに、褒め言葉をそのまま受け取ってもらえない事態も発生する。

先日、病院の待合で隣にいたご婦人に「素敵な柄のコートですね」と声をかけた。明るい色柄が、病院という無機質な空間を華やかにしてくれていた。だが相手は「いい年して派手すぎるわよ、ねえ?」と口ごもった。

褒め言葉ボールが、謙遜バットに打ち返されてしまった……。謙遜は美しい日本文化だと思うが、褒め活に限ってはなかなか厄介である。

しかし、褒め言葉は受け取ってもらえなかったものの、気持ちは伝わったのではないか。次は「ありがとう」と言ってもらえるかもしれない。褒める側も褒められる側も、上手くなるのに必要なのは慣れである。場数である。だから私は今日も「褒め活」にいそしむのであった。

文 朝水 想 イラスト 別府 麻衣

あさみ・そう
小説家、旅行作家。出版社勤務を経て、旅行書籍の編集、旅エッセイの執筆などで活動。
第46回小説推理新人賞を受賞。2025年、小説デビュー作『お稲荷さまの謎解き帖』(双葉社)を刊行。千葉県出身
X:@asami_sou25