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プレゼントがあたる!
第21話この頃、傷だらけ
隣町のコミュニティセンターに朝イチで足を運ぶ。新学期が始まったため、通常通りの静けさだ。アポを取らずに行ったが、お目当ての畠山さんは出勤していた。「畠山さん、その後、名越から連絡ないんですけど、何か連絡ありました?」
すると、畠山さんは首を傾げ、不思議そうに答えた。
「てむちゃん、お姉さんに聞いてない?
今、名越さんと直接やりとりしているのよ」
姉の瑠璃が、同窓会で名越に頼まれて畠山さんを紹介すると知り、私は進んで立ち会った。瑠璃が移住先の秋田に帰った後、橋渡し役をしようと思ったからだった。
「こちらも、いいタイミングで紹介してもらってよかったわ。次のイベントはバリアフリーのものを考えていたから、名越さんに知見があって勉強になってるの」
目を細めて嬉しそうな畠山さんに対し、私の頬は引き攣っている。もう、私を介する必要はなくなったらしい。
「で、今日はどうしたの?」
急に質問され、言葉に詰まった。
何か、腑におちない。言葉を濁してその場を後にした。
アルバイト先に向かうべく電車に乗り込む。「あーあ」
大きなため息が出た。イカンイカン。そんなときは、吊り革に捕まって背筋を伸ばすに限る。電車内は冷房が効いているが、車窓に流れる街並みには太陽光が強く照りつけている。家々の屋根に卵を割り落としたら目玉焼きでも焼けそうだ。それくらい強い日差しを緑の木々も吸収しているのか。植物って逞しいな……。
先々月から働いている浅草駅そばのビル内にある雑貨店では、レジ前にいるだけでほぼ誰とも話さずに時が流れる。
時給が高くて交通費全額支給のうえ、金髪でも問題がない職場は自分にとっては好条件。店番をするだけでお金をもらえているのだから、こんなに楽な仕事はない。
「払田さん、お疲れ様です!」
本社の営業担当の女性が昼休憩の交代のためにやってきた。先週、初めて挨拶をしたばかりのフレッシュな社員だ。交代員がくるや否や、私はトイレへ駆け込んだ。しょうがない。店番は一人しかいないから午前中はトイレに行けないのだ。そんなふうに慌ててトイレに走る自分を、昔の私の美意識では絶対に許さなかった。少しずつ大切な何かがすり減っている。そうと分かっていても、楽な労働環境に甘んじている自分がいる……。そもそもアルバイト一人に店を預ける体制が間違っている。でも、それを新入社員の彼女に訴えたとて、荷が重いだろう。
昼休憩が終わり、売り場に戻ると彼女は帰り支度をしていた。
「じゃあ、帰ります。払田さん、私のイチオシ、ディスプレイ前面に出しておいたのでよろしくお願いしますね!」
店頭に妙に不格好なクラゲのキーホルダーが品出しされていた。レジ横に、「私の初仕入れなんです♡払田さんならいいお客さんに勧めてもらえそうなので、多めに置いていきますね!」と丸っこい文字でメモが置いてある。まいったなあ。こっちはそんなにやる気はないのに。
レジを閉め、バイト先を出た。混んでいる電車内、座るが仏とばかりに隙間を見つけて座り込んだ。そうか、週末の夜か。ため息をつき、荷物を膝の上に乗せると、同じ車両にスーツ姿の名越が滑り込んできた。
「名越!」
そう叫ぶと、彼もこちらに気づき、席前の吊り革に手をかけた。
「今日、あっそっか、金曜だ。実家?」
こちらが聞くと、うん、と軽くうなずいた。
「先月は、紹介してくれてサンキュ」
名越の発した一言で、朝のモヤモヤが蘇ってきた。畠山さんのこと、言わなきゃ。
「あの……一言欲しかったんですけど」
拗ねた私の物言いに、名越は屈み、真顔で返事をした。
「あのさ、最近気づいたんだけど払田って、人の役に立ちたいんじゃなくて、自分の役に立てそうな場所を探してるだけなんじゃない?」
背筋に冷たいものが流れた。電車は隅田川を渡っている。
立った名越の向こう、車窓に映る浅草の夜景がいつもより鈍く濁って見えた。私は俯いた。なぜ、そんなことを言われなくちゃいけないんだろう?いいしれぬ悔しさが込み上げてくる。名越に悟られないよう、イヤフォンを耳につけた。
春日部まで1時間弱。私たちはそのまま何も話さなかった。
プロフィール
文筆家、脚本家。トラベルライターのキャリアを経て、令和7年度橋田賞新人脚本賞 短編部門 入選。TVer、TBSFREE、U-NEXTにて受賞作「へりとわらし」配信中。

