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プレゼントがあたる!
第13話友情はあんことともに
「てむちゃん、あけましておめでとう!」
元旦0時になると同時に、秋田にいる姉の瑠璃から絵文字のメッセージが届いた。私はすぐに、電話で折り返す。
「あけましておめでとう。ねえ、瑠璃がいないから、誰もあずき炊いてないよ!」
「そうなの? あ、初風呂沸いたから入らなきゃ。こっちはすぐ冷めるから」
瑠璃はあっさりと電話を切った。冷たい。
昨秋、我が払田家のスイーツ担当だった瑠璃が独立開業のために地方に移住してしまった。よって、クリスマスケーキは仕方なく出来合いのものを調達した。そっか、お汁粉、今年から食べられないのか……。
いつもあるはずのものが急になくなる寂しさったらない。小学校からの幼馴染が親同士の再婚により同居することになり、ずっと友達と楽しく暮らしている感覚だった。こうやって一つひとつ瑠璃の不在を確認する日々に慣れてはきたものの、大きな行事になると、彼女の存在の大きさを思い知る。そもそも、私は瑠璃以外に友達はいらないと思っていたし。
「アイドルになりたい」
そう強く願った目標も、叶ってしまえば仲間と競い、無理な愛想笑いをするのも疲れてしまった。だから2年前、地域アイドル活動を年齢制限で卒業したときは嬉しかったし、瑠璃がいるから、将来は二人で助け合えばなんとかなるだろうと気楽に思っていた。賑やかな時間が永遠に続くと勘違いしていたんだな、私。
朝、起きると萌葱(もえぎ)色の着物を着たママが鏡の前を陣取っていた。ああ、そうだ今日は元旦か。
「稲子、初詣はどうするの?」
「行かない」
「うちは羽子板屋なんだからゲン担ぎした方がいいんだけど」
「私、関係ないし」
「毎日手伝ってるじゃないの。恥ずかしい子! せめて神棚には手を合わせときなさいよ!」
母との毒のあるやりとりは通常運転。八幡様には、次の願い事が決まるまで行きたくない。
初詣に出掛けた家族を見送った後、郵便受けをのぞくと年賀状が届いていた。ゴムで束ねられた数十枚の年賀状の一番上に「払田てむ様」と書かれた年賀はがきがある。瑠璃がいなくなってからは私のことを「てむ」という愛称で呼ぶ人はほとんどいない。誰だろう。
差出人は、地域アイドル「カラリング」メンバーの美咲ちゃんだった。彼女は今年、アイドルを卒業するらしい。そんな報告と共に「また会いたいね!」と直筆で書かれていた。それ本音じゃないくせに。私の卒業した2年前から全くやりとりがないのに、また会いたいね、って何?
美咲ちゃんは隣で突っ込みたくなるような上辺のコミュニケーションが上手な子だったから、こういうの平気で書けちゃうんだよなあ。SNSの使い方もうまかったし、先を見越した挨拶賀状も完璧だ。こういうの、あざといっていうんだっけ? 首を捻っていると、玄関前に見慣れた制服のお兄ちゃんが立っていた。
「払田さーん、今年もよろしくお願いしますー。冷蔵のお荷物ですー」
元日の朝早々に到着した宅急便の宛先には「払田てむ様」と印字されている。またカラリング関係者?と差出人を見たら、払田瑠璃と印字されていた。内容は「お年賀」と書いてある。なになに? 急いで段ボールを開けると、瓶詰めジャムと炊いた粒あんとこしあん、のし餅、ハタハタ寿司が入っていた。
「瑠璃ぃ! あんたはできる女だよ!」
思わずその場で小躍りしてしまった。そうだよ、本当の友達ってこういうこと! って私たち、姉妹でもあるんだけど。
急いで瑠璃に電話をした。応答がないのでメッセージを送ったが、既読にならない。スマホを置いてどこかに行っているんだろうか。春日部にいたときはすぐに反応してくれたのに。
荷物には、瑠璃の丸っこい字で、「お汁粉の作り方」と書かれたレシピが入っていた。文末に「ばあばには餅を小さく切って焼いてから食べさせてね」とある。
小鍋に材料を入れて火にかけてみた。瑠璃の文字を追いかける。焦がさないように弱火にして、木べらで混ぜながらこし餡を温めるのか。ちょっと面倒だ。湯気が顔に当たったせいか、瞳が潤む。……そっか、年末にみんなでもちつきをしたんだね。
のし餅に触れると、やわらかい雪の肌触りがした。
プロフィール
文筆家、脚本家。2021年日本シナリオ作家協会主催「新人シナリオコンクール」佳作受賞。現在は、小説執筆のほか、脚本家としてテレビや映画の仕事に携わる。

