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第4話
今日もいい日だったと思って眠りたい
「そんなつまらないことで幸せになれていいね」と言われたことがある。コンビニのお菓子を一口食べて「おいしい、ああ、幸せだなあ」とつぶやいたら知り合いがそう返してきたのである。「いいね」と言うがうらやましいわけではなく、軽んじていると伝わってくる。
その時はさすがにムッとしたが、幸せを感じるハードルは低ければ低いほどいいはずである。その分人生の幸せな時間が増えるのだから。
もし「仲間とヨットでシャンパンを開けるまでは幸せを感じないわ」という人がいたら、お金持ちだったとしても不幸な気がする。
そういう私も、かつては日常のささいな幸せに目を向けることは少なかった。おいしいレストランとか、おでかけとか、楽しいことを追い求めるのが幸せだと思っていた。
それが体調を崩したのをきっかけに、考えが変わった。当たり前と思っていたことが、本当は幸せなことだと気が付いたのである。暖かい日差しのなかを歩くのってなんて気持ちがいいんだろう。家族に「おはよう」って言ったら「おはよう」って笑顔で返してもらえるのはなんて素敵なんだろう。
それから、寝る前に今日あったいいことを思い返す習慣ができた。これは私が思いついたことではなく、アメリカの心理学者が提唱した考えを自分なりにやっているのである。
寝る前、というのがポイントじゃないかと私はにらんでいる。人間は悪いことの方が頭に残りやすい。体調が悪い上に仕事のトラブルに巻き込まれ、イライラして家族ともケンカ、そんな日は「今日は最悪だった」と総括しがちである。
でもベッドに入って一日を振り返れば、いいこともあったと思い出す。通勤途中にかわいい三毛猫をみかけた。同僚とちょっとだけ笑い合う時間があった。大きな出来事の陰にひっそりと隠れた幸せを引っぱり出し、愛でてあげる。ちょっと無理やりだけど、今日もいい日だったと思って眠る。
続けていると、いいことを探すのがうまくなり幸せに自覚的になる。何より「自分の人生も悪くないじゃないか」という気分になっていく。
幸せを数えてみると、どうやら調子がよいみたいです。
文 朝水 想 イラスト 別府 麻衣
あさみ・そう
小説家、旅行作家。出版社勤務を経て、旅行書籍の編集、旅エッセイの執筆などで活動。
第46回小説推理新人賞を受賞。2025年、小説デビュー作『お稲荷さまの謎解き帖』(双葉社)を刊行。千葉県出身。
X:@asami_sou25

