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第5話
おちゃめなイタリア人のおじいさん
今年もゴールデンウィークがやってきた。旅行を楽しんでいる方も多いかもしれない。
私は旅が好きだ。その場所に立ち、空気を吸い、歩いてみなければ分からないことを知るのが楽しいからだ。バンコクの街の喧騒はどれくらいうるさいのか、ハワイの風の心地よさはどんなものなのか。実際に行かなければ分からないし、人によって感じ方も違うはずである。
なかでもいちばん「その場所でないと分からない」のは、そこに暮らす人々のことではないだろうか。どんな服でどんな表情なのか、早足なのかゆっくり歩くのか、何が楽しみで、何をつまらないと思うのか、気むずかしいのか陽気なのか。印象は偶然の出会いにも左右されるかもしれない。
若い頃、母と一緒にイタリアのローマを訪れたことがある。「イタリア人男性は若い女性に声をかけてくる」と聞いていたのでちょっと身構えていたのだが、母と一緒だからか、はたまた私の魅力の問題か、誰も声なんてかけてこない。ちょっと肩透かしを食らった気分で街を歩き回り、疲れたので広場のベンチに座って休むことにした。
空いているベンチを探したが、混んでいて見つからない。すると、イタリア人のおじいさんが席を詰めて座らせてくれた。
背広をきちんと着込み、白いひげをきれいに刈りそろえたダンディな人で、好奇心に輝く瞳をしていた。この広場に用事がある訳ではなく、出会いを楽しみに来ているようだった。
彼は話したそうにしていたが、私たちはあいにくイタリア語が分からない。でも席を譲ってくれたお礼は伝えたい。そこで手帖の一部を切り取った紙で、折り紙を折ることにした。
おじいさんは何が起こるのだろうとわくわくした様子で、折り紙を折る私の手元を見つめている。折り鶴ができあがると、羽をぱたぱたと動かしながら、相手の手に載せてプレゼントだと伝える。彼はおおげさに喜んでくれた。
ではそろそろ、と腰を上げた瞬間、おじいさんが母には見えないよう私だけに投げキッスをよこした。慣れていないとできない早わざである。その出会いを通して、私はイタリア人の気質に触れたのであった。
文 朝水 想 イラスト 別府 麻衣
あさみ・そう
小説家、旅行作家。出版社勤務を経て、旅行書籍の編集、旅エッセイの執筆などで活動。
第46回小説推理新人賞を受賞。2025年、小説デビュー作『お稲荷さまの謎解き帖』(双葉社)を刊行。千葉県出身。
X:@asami_sou25

