2025.3 No.909 掲載

プロフィール

つかもと・こなみ
塚本 こなみ さん

日本初の女性樹木医。1級造園施工管理技士。あしかがフラワーパークの大藤をはじめ、数百本にも及ぶ巨樹古木の移植を成功させる。同パークの園長を経て、現在は、はままつフラワーパークの園長と浜松市花みどり振興財団の理事長を兼任。

樹齢130年の大藤4本を「あしかがフラワーパーク」に移植する快挙を遂げて話題になった、造園家の塚本さん。
木のお医者さんといわれる樹木医でもある塚本さんに、女性としての仕事との向き合い方や、働き方のヒントなどを伺いました。

造園家、樹木医、植物園の園長として多くの経験から得た喜びとは―

夫のサポートから始まった
造園家という仕事

――造園業を始めたきっかけは?

最初は造園業を営んでいる夫に嫁いで、夫を支える立場として会社の経理とか営業を手伝っていました。その当時はバブル経済の時で、造園業界は工事を受注することだけに一生懸命だったんです。でも、庭も公園も完成したら終わりじゃないんですよ。工事が終了しただけで、お庭はおぎゃあって生まれたばかりなのです。だから、その庭をより成熟させて、美しく快適に、皆さんが安全に利用できるように育てていくことが必要なんです。それで、これからは緑を守り育てる会社が必要だと思って、自分で会社をつくりました。

――ご苦労されたこともあったのではないですか?

その当時、造園業界は99.9%男社会ですから、私なんか「女のくせに」と言われ続けました。まだ30代でしたから、お化粧もちゃんとして、建設工事の打ち合わせに行くじゃないですか。すると異様な顔をされて「どちらのお店の方ですか?」と聞かれ、「庭屋です」と言うと、びっくりされていました。

――逆に女性だからこそできたというお仕事は?

37歳の時、300区画の宅地造成の緑化を全て私に任せたいという仕事が来ました。でも「うちは工事よりもメンテナンスが主体なので、夫の会社に渡してください」って言ったんですよ。そうしましたら「男性でなく女性に頼みたい」と。宅地造成は、主婦、家族、子供たちが主役。隣近所でいいコミュニティができる住宅地をつくりたい。だから女性の感性を生かした塚本さんの会社でやってほしいと言われたんです。

――巨樹古木の移植を試みたきっかけは?

実は先ほどの仕事の中に樹齢千年という古木があって、お施主さんから「宅地造成でこの木を新たな町のシンボル、守りの木として移植してほしい」と頼まれたんです。知人からは「移植は難しいから、切ってベンチにでもした方がいい」と言われましたが、意を決してその木を動かしたわけです。そして、無事に移植と300区画の緑化も終わると、移植の仕事が多く来るようになりました。それから巨樹古木を100本以上動かして、1本も枯らさないという実績が持てたわけです。

2つのフラワーパークの
園長に就任

――「あしかがフラワーパーク」に大藤を移植されたきっかけは?

足利で移植した藤は、幹回りが3m50cm以上、直径1mもあるような藤が4本。パーク移転のため、この藤を郊外の新しい公園(現・あしかがフラワーパーク)に移動しなくてはならず、お施主さんが移植できる会社を4年間も探していらしたんです。ところが、どこにも引き受けてもらえず、最終的に私に電話してきたんです。
それでどうにか藤の移植は成功しましたが、その後、園の植栽設計を頼まれて、公園ができたら今度は藤を育てることに力を貸してほしいと言われて。そのまま3年経ったら園長になっていました。だから足利には移植から始まって21年半通いました。足利での最後の2年間は、あしかが、はままつ両方のフラワーパークの園長を兼任していました。

はままつフラワーパークでは、春には桜やチューリップが咲き誇る

妻として母としての
仕事との向き合い方

――お仕事と家庭の両立方法は?

子育て中の頃は土日は休んでいましたが、樹木医になってからは、365日のうち360日仕事してました。それを30年やってますね。樹木医になる前も、昔は主人の内弟子8人が住み込みで働いてましたから、3人の子供を育てながら、弟子の朝晩ごはんの支度もしました。仕事は夜中まで、朝は5時からオムツを何十枚も洗って、人の何倍も働きましたね。子供たちは「うちにはお父さんが2人いる」って言ってましたよ。私の両親も見るに見かねて手伝いに来てくれました。
本当にここまで仕事をすると、まわりが動いてくれますね。もしも、中途半端な仕事をしていたら、たぶん協力してくれなかったと思うんです。私がいかに必死に生きてるかっていうことを隣で見てますから、だからこそ、家族の協力が得られたんだと思います。

――ご自分のお仕事を愛する、塚本さんの幸福論とは?

一生懸命というよりも必死に生きる、そんな人生を送らせてもらえて私は幸せです。好きな道を必死に歩んできたから、今があるのだと思います。お花が好きで植物が好きで、ずっとこの仕事を続けたい。お客様の「わぁきれい」っていう笑顔が見たいですからね。それが何よりの幸せかなって思います。足利でも浜松でも、公園で聞こえてきた「生きていてよかった。こんなきれいな花を見ることができて」というお客様の言葉。自分の人生を振り返ってみて、一番うれしい言葉です。

インフォメーション

春爛漫!塚本さんの手がけた
美しい公園の花々を愛でに行きましょう!

はままつフラワーパーク

浜名湖畔の自然の地形を活かした、30万m2の広大な植物園。園内では桜、藤、バラなど、四季を通じて花のリレーが楽しめます。噴水ショーや季節でテーマが変わる大温室も人気です。

あしかがフラワーパーク

樹齢160年におよぶ大藤と四季の花が楽しめる、花と光の楽園。春は600畳敷きの藤棚を持つ大藤や、長さ80mもの白藤のトンネルなど、350本以上の藤が咲き誇ります。

text : Takako Inamoto photo : Mayumi Komoto