2026.7 No.925 掲載

プロフィール

イラストレーター

ますのうち・あさこ
升ノ内 朝子 さん

2005年よりフリーのイラストレーターとして活動開始。現在は日本とギリシャを拠点として、雑誌や広告を中心に活動中。紙物や文房具を集めるのが好きで、自身のイラストを使ったポストカードやステーショナリーも数多く制作。

当誌表紙のイラストでもおなじみの
升ノ内朝子さん。
日本とギリシャの2拠点で活動する升ノ内さんの
ギリシャでの暮らしや見どころ、
ご自身の作品などについて伺いました。

美しさと温かさにあふれるイラストは
ギリシャでの暮らしから生まれた

日本と海外での生活
住む国により描く絵も変化

――まずは作品について伺います。デジタルではなく、アナログで描かれる理由は?

展覧会を続けていることは、その理由のひとつかもしれないですね。展覧会だと原画を欲しがる方が圧倒的に多いので。
私の場合はアクリル絵の具がメインで、ときどき色鉛筆も使って描いています。私は優柔不断で、描いた絵を消すことがすごく多いんです。アクリル絵の具だと、間違えて描いてしまっても重ねてつぶせるから便利なんですよ。描いていて、なんか違うなと思うと、アクリル絵の具を重ねて人を丸々消しちゃうこともあります。それを水彩画でやると、ぐちゃぐちゃになっちゃいますからね(笑)。

――イラストはどちらで学ばれましたか?

日本で大学在学中に、セツ・モードセミナーでイラストを学んで、その後はイギリスのウィンブルドンにあるアートスクールに通いました。イギリス留学は1年間の予定でしたが、その後もブライトンの大学のイラストレーション科に3年間通って、その頃にイラストレーターとしてデビューしました。
ちなみに、毎年展覧会をやっている3人展のメンバーは、セツ・モードセミナーのときの同期なんです。卒業展をやって以来、毎年3人展を続けています。

――ギリシャへ移住されたきっかけは?

イギリスへ留学していたときに、当時同じく留学中だったギリシャ人の夫と出会いました。学生の頃から付き合い始めて、そのあと私は一度日本に帰ったので遠距離恋愛をしていましたが、その後結婚してギリシャへ渡りました。
それまではギリシャには一度も行ったことがなくて、特に興味があったわけでもなかったので、まさか自分がギリシャに住むとは思ってもみませんでした。

升ノ内さんが住むパレオ・ファリロにあるフリスボスビーチ

――イラストを描くうえで、ギリシャの風景や暮らしからインスピレーションを受けることは?

かなりありますね。絵のモチーフとなる素材が多いですから。ギリシャというと美しい海のイメージがあると思いますが、いわゆるよくあるギリシャの絵みたいな感じにはしたくないんです。なので、いまだにパルテノン神殿とかエーゲ海の白い家々みたいな絵は描いてないです(笑)。やはり住んでいるということもあって、暮らしをもっと深掘りした素材で描きたくなります。最近よく描いているのはアテネの街なかの雑多な雰囲気や、街のお店とかをシリーズのような感じで描いています。
自分が描く絵って、住んでいる国も影響するのかなと思っています。イギリスに留学していた頃の絵は、イギリスは曇り空が多いせいか、もっと暗かったんですよ。でもギリシャに行ってからは、みんなから「絵が明るくなったね」と言われるようになりました。

まるでドラクエの世界!?
魅力いっぱいの島とは

――現在はどんな場所にお住まいですか?

アテネの南の方で、海に近い所に住んでいます。私は行かないですが、近所のご老人たちは健康のためなのか、気軽に朝「ちょっと行ってくるわ」という感じでパッと海に行って、サッと泳いで帰るみたいなことをしています。
日本と同じように四季があり、稀ですが夏は40度くらいになるときもあれば、冬に雪が降ることもあります。冬は暖炉を使う家が多く、毎年暖炉の匂いがし始めると「冬が来たな」と感じます。

――今まで旅された中で、おすすめの場所を教えてください

トルコに近い場所にある、ヒオス(キオス)島です。ここはイースターのときに、教会同士でロケット花火を打ち合う激しい祭りでも有名です。この島にピルギという村があって、その村の建物の壁がすごいんです。白い漆喰しっくいの壁をフォークで削って模様を作っていて、それがすごくきれいで本当に素敵な村でした。
それからこの島には「マスティハ」という特産物があります。マスティハの木の樹液を乾燥させたもので、抗菌作用があるため、歯磨き粉やガムにしたり、飲み物やデザート、化粧品なんかにも使われます。クセがあるので実は私は苦手なのですが、ヒオス島でしかとれない貴重なものなので、まるで昔遊んだゲームのドラクエの世界に出てくる入手困難な幻の秘宝のようで、その存在がすごく好きなんです。そんな不思議な島というか、いろいろな魅力が詰まった島なので、ぜひおすすめしたいです。

ヒオス島のピルギ村では、美しい模様の漆喰の壁が連なる

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ギリシャでの暮らしや、升ノ内さんの趣味を深掘り!

――ギリシャでの会話は、何語を使われますか?

実は私、ギリシャ語がしゃべれなくて、スーパーに行くぐらいなら大丈夫なんですけど。家では、娘とは日本語、夫とは英語、3人で一緒にいるときは英語でしゃべります。娘と夫はギリシャ語で話すので、ギリシャ語と英語と日本語の3カ国語が飛び交っています。日本語もギリシャ語も世界的にはマニアックな言語なので、結構特殊ですよね(笑)。

――ギリシャではどんな料理を召し上がりますか?

ギリシャ料理は基本的に肉料理が多いです。味付けはオリーブオイル、レモン、塩といったシンプルなものが多いですね。お隣がトルコなので、トルコ料理とかぶっているところもあって、ケバブ(ギリシャ語ではギロ)などはギリシャでもソウルフードの一つです。野菜もおいしくて、ギリシャに来てサラダをよく食べるようになりました。フェタチーズがドーンと乗ったギリシャサラダが有名ですが、私は特にダコスというクレタ島発祥のサラダが好きです。

ギリシャヨーグルトも有名ですよね。濃度の濃い水切りヨーグルト。ギリシャではあれが一般的で、スーパーでは1㎏単位で買っていく人も多いです。日本だとヨーグルトは朝食べるイメージですが、ギリシャ人は夜、小腹を満たすのに食べたりもするようです。ヨーグルトは料理にも使われて、特にきゅうり、にんにく、オリーブオイルやハーブなどをヨーグルトに混ぜた「ザジキ」というソースは定番です。肉料理や揚げ物などによく合います。

――画材だけでなく、文房具がお好きでよく買いに行くと伺いましたが、どんな店に行かれますか?

文房具も好きですが、文房具屋さん自体もすごく好きなんです。特にちょっと寂れた文房具屋さんを見つけると、興奮して体がカッと熱くなります(笑)。古い紙とか、ちょっと黄ばんだ昔の封筒とかを見つけると「お宝発見!」みたいな感じですごくテンションが上がります。もちろんパッケージがかわいいものもつい買っちゃいます。とにかく小さくてかわいいものが好きという点は、私の作品にも表れているかもしれませんね。

――文房具のほかに、好きで集めているものはありますか?

パッケージとか、切手や切符とか、その日限りのものや、消えてなくなっちゃうものが好きですね。あと包み紙。飴の包み紙とか、ああいうのも捨てられなくて、もう溜まる一方なんですよ(笑)。やっぱり紙は好きですね。

それから、はんこもすごく好きで、昔から集めています。今のはんこブームが来る前から、趣味の延長でひっそりとオリジナルデザインのはんこを作っていました。それが2年前ぐらいの展覧会で、そんなマニアックなはんこを求めてお客さんがブワーッて来て、「何事だ!?」みたいな感じになりました(笑)。今はまた少しずつ落ち着きを取り戻しつつあります。

それから看板も好きで、気になる看板を見つけると写真を撮っています。看板の書体も好きなんですよ。レトロな感じなものに特に魅かれます。日本でもかわいい看板がいっぱいありますよね。レトロといえば、マッチ箱もすごく好きですね。好きが高じてマッチや切手のデザインもやはりしたことがあります。とにかく小さくてかわいいものが大好きです。

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text:稲元孝子 photo:古本麻由未