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プレゼントがあたる!
第19話夏祭りの1日
ソーレ、ホイサ、トウリャッと朝から威勢のいいお囃子が聞こえてくる。
そうか、今日は春日部夏祭りの日か──。地元の祭りには、もう参加していない。誰かに会うのも面倒なので、こんな日は家でゴロゴロしているに限る。
「てむちゃーん、いる?」
呼び声が聞こえた。慌てて出ると、玄関先に赤と黒のコントラストが派手なよさこい衣装を着た高橋さんが立っていた。
「ごめん、突然、ひとり足りなくなったの。また出てくれない?」
地元のよさこいダンスチームのお世話をしている高橋さんに、急遽欠員の代わりに踊らされたのは2年前のこと。元アイドル時代の杵柄で、一度振り付けを見ればだいたい踊れるものだが、そのことに味を占めた高橋さんは欠員のたびに私を頼ってくる。
「ダンス辞めて随分経つし、もう足が動かないと思うよ」
「何言ってんの、大丈夫よ、体が覚えているわよ。時間、あるんでしょ?」
高橋さんはバッグの中から衣装を出した。すでに私が引き受ける前提らしい。よっぽどこちらが暇だと思っているのだろうか。
現場に行くと、懐かしい面々がいた。
「おっしゃー行くよーっ!」
かけ声とともに、異様にみんなの士気が高まってきた。エネルギーが塊のようになって今にも破裂しそうな勢いだ。
イントロが鳴り、それぞれのポジションにつく。事前に一度だけ練習できたので、後ろのポジションにいればみんなの踊りに合わせられる。そんな自信はまだ残っていた。
前の人の動きに合わせ、踊る。あれ?
おかしい。ステップが微妙に半拍ズレてしまう。地方アイドルグループ「カラリング」時代の、失敗を許されない緊張感が蘇ってきた。怖い。
私、せっかく辞めたと思ったのに、こうやって誰かに頼まれるとずるずると引き受けて人前に出て踊っている。中途半端も甚だしい。途端に、その場から逃げ出したくなった。
演舞が終わり、公園のベンチに座ると力が抜けてしまった。最後まで踊りきった。でも、完璧ではなかった。悔しい。せっかく努力を辞められたのに、目標への欠乏感はいつまでもついてくる。
「てむちゃん、お疲れ様! ありがとね」
高橋さんが水を差し出した。
「高橋さん、ごめんなさい。今回、うまく踊れなかった」
力なく答えると、高橋さんは両手で私の肩を触ってきた。
「わー、肩凝ってるね。珍しく緊張した?」
気落ちしているのが肩から伝わったのだろうか。
「緊張は、しないです」
そう呟くと、高橋さんは肩を揉む手を止めた。
「アイドル時代より、今のてむちゃんの方が踊っていて楽しそうに見えるけど?」
「そんなことないです。前の方がちゃんと体が動いて、人に見せられるものだった」
慰められると、なおさら惨めだ。
「そういうことじゃなくて。前のてむちゃんって、仕事って感じだったから。こっちはみんな楽しめたらそれでいいのよ」
「そういう適当なの、苦手なんです」
つい、高橋さんに当たってしまった。
「みんな、てむちゃんが入ってくれて助かったって言ってたわよ。私も、久しぶりに一緒に踊れて嬉しかった」
そう言って、高橋さんは立ち去った。
頑張りすぎると、人って少し面倒くさくなるのかもしれない。自己嫌悪。
駅前ロータリーに神輿が入ってきた。みんな祭囃子に乗って楽しそうだ。よさこいの衣装のまま人混みを歩くと、知った顔が神輿を担いでいるのが見えた。
先月久しぶりに会った同級生の名越拓己だった。法被から溢れそうなパツパツの胸筋が、神輿の担ぎ手としては信頼感がある。
「おーい、名越」
近づいて、声をかけた。
「おうっ、お前も担ぐか」
返事もしないまま名越の背後に入り、神輿の担ぎ手の仲間入りをした。
「エッサホイサドッコイサー!」
大声を出し、リズムをとる。
「なんだ? その掛け声!」
「いーの、魔法がかかんの!」
ユッサユッサと神輿を担ぎ、叫んだ。頭の中が空っぽになり、重かった肩がすうっと軽くなった。
祭りの夜、肩が擦り切れるまで神輿を担いだ。よさこいの衣装、繕って高橋さんに返さないとな。
プロフィール
文筆家、脚本家。トラベルライターのキャリアを経て、2021年日本シナリオ作家協会主催「新人シナリオコンクール」佳作受賞。令和7年度橋田賞新人脚本賞 短編部門 入選。

