-
01
最新号
-
02
あなたのONE SCENE
かつての剛志駅
-
03
クロストーク
蜂谷宗苾さん
-
04
こよみ、くらし。
和菓子
-
05
ちょっと、そこまで
加須編
-
06
それはさておき、コーヒーでも。
断食ホテルと遅れてきた青春
-
07
アートのはなし
-
08
Window on TOBU
-
09
東武沿線小説
てむちゃん on the way
-
10
てみやげ、おもたせ、心づかい
六どら 黒糖どら焼き 六人衆
-
11
謎解き教室
-
12
バックナンバー
プレゼントがあたる!
第18話駅前同窓会
アルバイトの帰り道、偶然、電車で幼馴染の彩夏に会った。「蒸すね~」「一杯行っとく?」とそのまま近所の立ち飲み居酒屋「ばる」へ。特に週末は顔見知りばかりなので避けていたけど、こんなに蒸し暑いとシュワッと喉を潤したくなるものだ。
「おー。払田だ!すげーなその髪!」
「おめーアイドル辞めたんだってな」
やっぱりいたか。奥のカウンターから同年代の男性3人組が私たちを手招きした。一人は元生徒会長の田宮だとわかるけど、あとは誰だっけ。ぽかんとした顔をしたのがわかったのか、そのうち胸筋でシャツがパツパツの人が大声で話し出した。
「払田、俺、覚えてない?名越!名越拓己。サッカー部の、2年3組で一緒だった」
ああ、名越か。確か、背が低くてリスみたいな可愛らしい顔をしていたはず。中学卒業から15年以上も経てば、ずいぶん人って変わるものだな。
「大胸筋、すごいね。流行りの筋トレ?」
「流行りって……一言余計っていうか嫌味っていうか、そういうとこ中学ん時から全然変わってないな!」
「そう?変わったよ。大人になった」
へーという表情で、私の金髪をジロジロと見てきた。こういうの、もう慣れた。
あとの一人は、山下。全員サッカー部だった人たちだ
「今さ、お盆に中学の同窓会しようって話してたんだよ」
田宮の発言に、彩夏が「わー賛成!」と手を叩くものだから、なりゆきで私も同窓会実行委員になることに。
「瑠璃ちゃんも入ってくれるでしょ」
名越は、姉の瑠璃のことを覚えていた。
「同窓会には来るとは思うけど、今、ここにいないから実行委員は無理だと思う」
「え、いないって、結婚したの⁉」
大袈裟に驚く田宮に、山下も続く。
「えー、マジで⁉」
ふうん。瑠璃は男子に人気があったのか。
「違う、結婚してないよ。秋田に移住したの。そろそろスイーツの店、開業したんじゃないかな」
彩夏は、瑠璃のSNS を探し、スマホをかざして皆に見せた。
そんな、その場にいないメンツの話は同級生の人数分あるから絶えない。何杯もジョッキを空にしているうちにそれぞれが酔っ払い、周囲はうるさく、何を言っているのか聞こえない。この人たち、今も地元にいるのかな……私は、お互いの近況を全く話していないことに気づいた。
「払田って今どうしてんの」
急に隣にいる名越に声をかけられた。心の声が漏れたかと思い、どきりとした。
「名越こそ何やってんの」
「俺?俺は、スタートアップ」
こちらが当然わかっているような口ぶりが気に入らなかったので
「ふうん、すごいね」
とだけ返しておいた。
「払田、俺はさ、ビジョンは環境から生まれるっていうのを指標化して誰でも使えるシステムに落とすことに命かけてんだ」
「ビジョンを、命をかけて」
咄嗟に反応したが、この人のビジョンってなんだろう?そのシステムとやらを使うとどんな効果があるかと名越は熱く話し続けている。その熱量、私もアイドル時代には持っていたような気がする。
「で、お前は?」
急に話が振られたので、
「家の手伝いとアルバイトしている」
と答えた。
「そっか。うちのシステム使ってみる?成果、上がるよ」
「ううん、いらない」
私自身には今のところ明確なビジョンはないので即座に断る。すると、名越は、酔いで顔を赤らめながらも悲しそうな表情をした。
私たちはグループラインを作り、それぞれ同窓会の分担を決めることにした。そして、2週間後の再会を約束して別れた。
帰り道、彩夏がつぶやいた。
「名越、毎週末こっちに帰ってきてるんだって……」
東京に住んでいる名越は、障がいを抱えた弟の自立支援を今年に入ってから本格的に始めたのだそう。
「ビジョンは環境から生まれるか……」
胸筋、ただ鍛えていたわけじゃないのかもしれない。
帰宅し、着替えをすると夜風でいつもは乾燥気味の髪がしっとり湿気を帯びていた。
スタートアップ、とスマホに打ち込んでみた。
プロフィール
文筆家、脚本家。トラベルライターのキャリアを経て、2021年日本シナリオ作家協会主催「新人シナリオコンクール」佳作受賞。令和7年度橋田賞新人脚本賞 短編部門 入選。

