伝統的な曲家が多数残る山里の集落、南会津町「前沢曲家集落」

前沢曲家集落は古きよき日本の情景のタイムカプセル

電気もガスも車もない時代、人々はどのような生活をしていたのか。その答えを知るヒントが、福島県南会津町「前沢曲家集落」にあります。

前沢曲家集落は、日本有数の高層湿原・尾瀬のふもとにある自然豊かな村落です。曲家とは母屋と馬屋が一体となったL字型の住宅のことで、農耕馬と一緒に暮らせる作りになっています。集落内には馬頭観音と馬力神があり、いかにこの地で馬が大事にされてきたかがわかります。

平成23年には集落全体が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、以後、日本の原風景を今に残す場所として多くの人が訪れるようになり、ドラマのロケなどで使われるようにもなりました。南会津町に数ある観光地の中でも、近年特に注目を集めているスポットです。

人々の暮らしが息づく町並みをまるまる体験しよう

前沢曲家集落は会津鉄道「会津高原尾瀬口」駅からバスで34分の距離にあります。周りには、南会津の山々と田園風景が広がっています。

集落入口にある大山桜の木々をくぐると、集落から流れてくる水を引く水車と「バッタリ小屋」(水の力で「きね」を動かす器具)が見えてきます。水車と「きね」が出す音は、かつての日本の農村でよく聞かれた音です。

道なりに進むと、曲家の町並みが目に飛び込んできます。集落には曲家13棟を含む伝統的家屋が19棟あります。民家では住民が生活しているため中の様子を見ることはできませんが、「曲家資料館」では昔の曲家における暮らしや風俗を見学できます。資料館には昔の農具や生活道具がそのまま展示され、いろりのパチパチとした音が響き渡ります。いろりは暖房としてだけでなく、立ち上がる煙によって屋根の茅葺をいぶして長持ちさせるためにも使われていました。こういったところからも昔の人々の生活の知恵が伺えます。

南会津の歴史と文化を間近で見たあとは、絶景スポットで記念撮影はいかがでしょうか。集落入口の向かいにある遊歩道を登っていくと展望台があり、そこから集落が一望できます。季節ごとに移ろいゆく山々の表情と曲家が独り占めできる最高の場所です。

のどかな自然の景色と一緒に味わう前沢の田舎グルメ

田舎情緒あふれる前沢集落ならではのグルメも、ぜひ味わっていただきたい魅力の一つ。地元の恵みがたっぷりとつまったおいしい料理が揃っています。

集落の入口に店をかまえる「そば処曲家」では、地元のそば粉と清水を使用した十割そば、イワナや山菜の天ぷらなどが楽しめますが、中でも一度は食べていただきたいたいのが、南会津地方の郷土食「はっとう」と「ばんでい餅」です。

「はっとう」は、そば粉ともち米粉をお湯で混ぜてよく延ばし、ひし形に切ったものをゆで上げた郷土食です。食べるときにじゅうねん(エゴマ)をたっぷりとまぶして食べます。江戸時代、あまりのおいしさに役人が「こんなうまいものを毎日食べるのはもってのほか」とご法度になった、というのが名前の由来とされています。

「ばんでい餅」は、うるち餅を平たく丸めたものを串に刺して、じゅうねん味噌を塗って焼いたもの。昔、木地師と呼ばれる木工品の加工職人は、山仕事を始める前に安全を祈願し山の神様へこのばんでい餅を奉納していたといいます。つきたての餅はふわふわとした食感と温かさで、食後のデザートにぴったりです。

エメラルド色をおびた川面が美しい舘岩川と曲家の風景を見ながら味わう田舎料理の数々は、あなたの日常の疲れをきっと癒やしてくれます。

ゆったりとした時間と地元の人々の「おもてなし」が心地よい

重要伝統的建造物群保存地区の選定以降、前沢曲家集落に訪れる観光客は年々増えつつあります。歴史的な景観の保全と住環境整備、地域の活性化を目指して結成された前沢景観保存会では、要予約で「おもてなし案内人」によるガイドを実施していますので、地元の人しか知らない前沢の魅力を直接聞きながら観光することもできます。

最近では、集落の景観を楽しむだけでなく、50年ぶりに復活した「薬師様まつり」や子どもたちを対象にした「イワナつかみどり」、「前沢曲家まつり」などのイベントを楽しみに集落へ訪れる人の姿もあります。

かつての南会津の暮らしを今に残したこの地には、ゆったりとした時間と地元の人々の活気があふれています。

※2019年10月現在の情報です